描き始めたのは『バリバリ伝説』の連載が終わって、そんなにすぐではないんですよ。その間に2~3本くらい短い連載があったけど、人気が出て売れるほどではなくて。かつてヒット作を出した人間として、何を描いても読者から共感を得られなかった時期にいろいろ悩んでいたんです。
その当時仲のよかった担当者が「クルマが好きなんだし、書いてみれば」って。実は、内心抵抗していた部分もあるんですよ。「オートバイ漫画書いて、次はクルマ」って安直な感じがして。けっこう背水の陣で、これでダメだったら廃業しようと思いつめてました。
そうですね。仕事の合間に群馬の山まで出かけて行って、夜明け前くらいに現地に着いて、一般車がいなくなる1時間半くらいの間走っていました。それを毎週やっていましたね。
―後に「トヨタ 86」も発売されましたが、『頭文字D』がなければ出なかったかもしれませんね。
アハハ。ハチロク自体は僕が乗っている当時爆発的にヒットして、タマが本当に多かったんですよ。ドライブに出かければ「ハチロクと何台すれ違うんだよ」って感じでした。レビンも含めて、色も3種類あったし。でもハチロクとすれ違うのは嬉しかったです。レビンならレビンで、同志というか、どういう型なのかチェックしたりして。人のクルマをチェックするのも好きでしたね。
―その後に乗ったクルマと、現在の所有車は?
1台を長く乗る方なのですが、トヨタ車が結構多いですね。うちの親父もずっとトヨタ車だったんで。ハチロクの後にコレの先代はどんなものかって知りたくなって、71のレビンも買ったんですが、エンジンも全然パワーないし、ボディなんかもヨレてて意外とよくなかった。
あとは「かっ跳び」スターレット1300も乗りました。あとは、2代目のソアラも。ラグジュアリーカーでデカいわりには2ドアクーペで、ハチロクとの棲み分けがうまくいかなくて、そんなに長く乗らずに手放しましたね。
トヨタ車以外だと、スバルのインプレッサもよかった。ハチロクに近いくらいリニアな感覚的スポーツカーだったんですよ。それを手放すときにハチロクを手放しちゃおうかな、って一瞬迷いましたが、手放さなくって良かった(笑)。今はベンツのEクラスと、最初に買ったハチロクの2台です。セカンドカーを乗り換えている感じですね。
―いまでもハチロクに乗っているんですか!!
そうですね。旧車好きってわけじゃないんですけど、ハチロクだけは別ですね。買ってから一度も手放してないです。たまにあれでゴルフ行ったりしていますよ。やっぱり走ってあげないとね。ときには一瞬だけ無茶もしましたし(笑)。なんていうのか、僕のハチロクはフィーリングが凄く早いんですよ。タコメーターをフルまで回してローからセカンドに繋いだ瞬間、怖いんです。サスが悪いのかもしれないけど、前に進もうとするパワーに足が負けている気がして、緊張するんですよ。思わぬ方向に飛んでいってしまいそうで。そんなことは絶対に起こらないんですけど、恐れを感じるほど凄い加速感なんです。もう1台のベンツのほうがきっと速いんでしょうけど、気分的にはハチロクに置いていかれるな、って。
エアコンも効かないし、あんまり悪目立ちもしたくないけど、たまに夜中にハチロクに乗っています。10分ぐらいでもいいんですよ。前後にクルマがいないところで、たまに目一杯アクセルを踏んでみる。そういうのが漫画家としての原動力というか、言葉では言い表せないんですが、あれを感じていないと漫画なんか書けないかもしれません。
―もう最近のクルマには興味がなさそうですね(笑)
そうですね。でも、そういえばプリウスに乗ってたこともあったんです。意外によかったですよ。けっこう早くて、よく走ってくれました。伊豆にしょっちゅう行っていたので、熱海から伊豆の間のワインディングロードはけっこう楽しかったな。仕事に行き詰まると伊東で2泊ぐらいしたり。自分の中では伊東はパワースポットで、アイディアに詰まっていても不思議と打開できたり。今は忙しすぎて行けないのが悩みなんですが。
―今後のクルマに求めることとは?
これからのクルマはどんどんつまらなくなると思いますよ。「自動運転」なんて、ある意味最悪です(笑)。そうなったら、ラグジュアリー性と、安全性とエコ性だけになっていくじゃないですか。個性もないし、外車もそうなるでしょうね。逆に古いクルマの方が存在感が光ってて、懐古する方向になっていくでしょうね。
まだギリギリ、エンジン回ってますけど、エンジン回ってないクルマばっかりになったら世も末だと思いますよ。機械として味わいを残さないとダメだと思いますね。ガソリン燃やして、排気ガスを出すのがクルマだと思います(笑)。
―しげの先生、貴重なお話ありがとうございました!
(写真:梶山真人 テキスト:渡邊智昭)
(取材協力:しげの秀一)