近年、組み込みLinux( Yocto )でのウインドウシステムとして Wayland/Weston が採用される事例が増えていますが、同環境上で使用できるインプットメソッドや、それと連携して動作する仮想キーボードは無いか?というお問い合わせを頂くことが増えました。
これを受けて、クリアコードでは サイバートラスト 様と共同で Fcitx5 をベースとした仮想キーボードを開発しましたので、ご紹介致します。
Wayland上で動作するネイティブ動作する仮想キーボードとしては、例えばWestonに標準で添付されているweston-keyboardがあります。 しかし、weston-keyboardはインプットメソッドと連携して動作することは出来ない他、あくまでもサンプル実装であるため、機能も限定的です。
この他にもQt Virtual Keyboardなどいくつか候補は見られますが、いずれもインプットメソッドとの連携は出来ないようです。
2021年11月の「 PC上でWeston + Wayland版Chromium + Fcitx5での日本語入力環境を構築する 」という記事でも紹介していますが、Wayland/Weston上でのインプットメソッドとしては、Fcitx5が比較的よく動作することが分かっています。今回紹介する仮想キーボードは、このFcitx5のWayland用UIを拡張する形で実装しました。
Waylandは 基本理念 として、あるアプリケーションが他のアプリケーションのウインドウを操作したり、また自身のウインドウであってもデスクトップ全体での絶対座標を制御したりすることができません。このことが原因で、従来のインプットメソッドを使用しようとしても、候補ウインドウ等を正しい位置に表示することができない・そもそもどこに表示されるか分からないという制約が発生します。Waylandのinput-methodプロトコルおよびtext-inputプロトコルを使用することでこの問題をある程度解消することができますが、Fcitx5は現時点でこれらのWaylandプロトコルに最もよく対応したインプットメソッドとなっています。
weston-keyboardを拡張するという選択肢も考えられましたが、仮想キーボードはインプットメソッドとの連携を密にした方が使い勝手が向上するため、Fcitx5のUIを拡張するという手段で実装しました。
クリアコードでは組み込みLinux向けWebブラウザの案件も多数お請けしており、今回開発した仮想キーボードも、主要なWebブラウザと組み合わせて利用することを想定しています。
Weston上のGeckoやWebKitGtkで使用する場合には、以下のGTK用IMモジュールを導入する必要があります。
同モジュールにより、他のGTKアプリケーションでもFcitx5や今回開発した仮想キーボードを使用できるようになります。
この他、Qtアプリケーションでも対応は可能と考えられます。
現時点では以下の言語に対応しています。
他の言語や配列にも容易に対応可能であり、お客様のご要望に応じて順次追加しています。
仮想キーボードとして必要な機能は一通り実装されている他、オプションで各言語での予測入力にも対応しています。 日本語レイアウトでは、ローマ字入力だけではなく、かな入力にも対応しています。 また、カタカナや半角カタカナへのモード切り替えもサポートしています。
実装したコードはFcitx5に対するパッチとして公開しています。
UI部分を単体のモジュールとして切り出す作業も進めていますが、
現時点ではFcitx5本体側にもパッチを当てる必要があります。 パッチは随時アップストリームにフィードバックしており、その多くは既に取り込まれています。
将来的にはパッチ不要でモジュールのビルドおよび動作が可能になるようになることを目指しています。
2018年の「 YoctoでFcitxをビルドする 」という記事で meta-inuputmethod というYoctoレイヤを開発していることを紹介しましたが、その後も開発を継続しており、現在ではFcitx5のビルドに対応しています。YoctoでのFcitx5の導入は、このレイヤを使用することで比較的楽に行うことができます。
Westonのインプットメソッドサポートは実際の利用例がまだ乏しいこともあり、Weston側でのバグによりFcitx5や今回開発した仮想キーボードが期待した動作をしない場面も見られました。こういった問題についても随時アップストリームにパッチを投稿しており、最新版では順次取り込まれています。
Yoctoではハードウェアベンダ等が提供するレシピを使用してWestonをビルドすることになるため、使用できるバージョンが古く、これらの修正が適用されていない可能性が高いです。
以上の通り、今回開発した仮想キーボードや、その動作に必要となる各種モジュール・各ソフトウェアへのパッチはほぼ全て自由なソフトウェアとして公開しています。しかし、実際にお客様の環境に導入にするにあたっては、GNU/Linux、特にWaylandにおけるインプットメソッド事情が複雑であることも相まって、一筋縄ではいかずケースバイケースで対応する必要があります。ここでは紹介していませんが、弊社お客様向けには、Chromium等のアプリケーション側で発見した不具合に対するパッチも提供しています。また、対応言語の追加やキーボード配列のカスタマイズ等が必要になってくることも多いと考えられます。
クリアコードではこういったカスタマイズやコンサルティング案件をお請けしております。クリアコードは組み込みLinux向け多言語入力や、Webブラウザを含むアプリケーションカスタマイズで豊富な経験を有しております。上記の通り、アップストリームとも協調しながら、時には必要に応じて独自プロトコルを追加する等の柔軟な対応で、お客様にとってより良いソリューションを提供できるものと考えておりますので、 お問い合わせフォーム よりお気楽にお問い合わせ下さい。