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研究実績の概要

寛骨臼形成不全股では円靭帯の大腿骨測付着部である大腿骨頭窩が、頭側に位置することが多い(fovea alta)ことが報告されています。骨頭窩は陥凹しているため骨頭窩が頭側に位置し骨盤側の関節面である寛骨臼月状面と相対すると大腿骨頭・寛骨臼間の有効な接触面積を減少させ、関節応力の集中を引き起こし変形性股関節症への進行に影響を与える可能性があります。実際の有効接触面積の評価は三次元的に行われる必要がありますが、fovea altaに関する報告は、定性的なもの、または2次元画像による評価のみで、三次元的に定量評価する方法は確率されていませんでした。
そこで我々は股関節CT DICOMデータから作成した三次元骨モデルに対し、独自のソフトを用いて大腿骨頭表面・寛骨臼表面間の距離を三次元的に網羅的に計測することにより、大腿骨頭窩が大腿骨頭・寛骨臼間の接触面積に与える影響を三次元的に定量評価する方法を確立しました。
また、これまでの本研究で確立した独自のソフトを用いて寛骨臼辺縁上の骨盤座標系で最も頭側の点(最上点)、寛骨臼上の最も外側の点(最外側点)、CTでのlateral center-edge angle(LCEA)計測に頻用される大腿骨頭中心冠状面と寛骨臼辺縁が交わる点(中央冠状面点)を計測する方法によって、各点が三次元的に寛骨臼上のどの位置に該当するかを実際の過去の症例におけるCT DICOMデータで解析し、寛骨臼clock face座標系(寛骨臼切痕: 0°、前:90°)を用いて評価し、形成不全(LCEA≦20°)、境界型(20°≦LCEA<25°)、正常(25°≦LCEA<40°)関節群間で比較しました。

2022年度我々は、CT DICOMデータから作られた3次元骨モデルを用いて股関節中間位での大腿骨頭表面・寛骨臼表面間の距離を独自のソフトを用いて三次元的に網羅的に計測する方法を確立しました。そして、これまでの解剖学的報告に基づいて大腿骨頭と寛骨臼月状面間の距離が4.5mm以内の範囲を骨頭・寛骨臼接触面とし、その大腿骨側の接触面位置を臥位機能的骨盤座標系(直行座標系)上で同定する方法、骨頭窩部を抽出し臥位機能的骨盤座標系上で同定する方法を確立し、これらを対比することにより大腿骨頭窩と寛骨臼月状面が重複している範囲を個々の症例で三次元的に定量評価可能とする方法を確立しました。
また偏心性寛骨臼回転骨切術、湾曲内反骨切術、人工股関節全置換術を実施された16歳から60歳の患者の術前CTの対側股の画像より作られた3次元骨モデルを用いて、最上点、最外側点、中央冠状面点を寛骨臼clock face座標系で評価し、最上点と中央冠状面点の位置は形成不全群、境界型群、正常群間で有意差がないものの、最外側点は形成不全群で境界型群よりも有意に後方に位置し、境界型では正常よりも有意に後方に位置する結果を得て、寛骨臼辺縁最外側点は形成不全の重症度に応じて後方にシフトしていることを明らかにしました。
本研究の主要部分である、関節適合性・不安定性に関連しうる独創的な骨形態パラメーターの定量評価法を複数確立し、実際の計測も適宜進めており、本研究はおおむね順調に推移していると考えております。

今後の研究の推進方策

これまでの本研究で確立した「寛骨臼開口面の法線ベクトルに基づく新規寛骨臼形成不全分類法」、「大腿骨頭窩と寛骨臼窩の三次元的位置関係性の定量評価法」を用いて新規パラメーターの計測を実症例で進め、症例数を増やすことにより、その評価法の妥当性の検証やカットオフ値の設定、「acetabular sector angle」等の既存の各種パラメーターと本研究での新規パラメーターの関連性の評価等を行っていきます。また「寛骨臼辺縁の曲率変化の定量評価」等の関節適合性・不安定性に関連しうる独創的な新規骨形態 パラメーターの定量評価法の確立をさらに進めます。
さらに並行して偏心性寛骨臼回転骨切り術等の関節温存手術を実施する患者の術前評価として実施する両股関節内・外転、屈曲・伸展の動態撮影から二次元動態撮影像を得て、 二次元・三次元レジストレーションソフトウエアを用いて、二次元動態撮影画像と三次元骨表面モデルを統合することにより股関節の動的状態と接触面積の変化等の独創的な評価を進めていきます。