6月9日にオンライン研究報告会を開催し、増木優衣先生の単著『ヴァールミーキはどこへ行けばよいのか――現代インドの清掃人カースト差別と公衆衛生の民族誌』(春風社、2023年)について報告がなされた。現代インドのカースト問題を公衆衛生とのかかわりから文献調査およびフィールドワークを通じて明らかにした研究として高く評価される。
今年度はこれまでの研究成果を公開すべく、論文執筆を中心的に進めた。計画的に進めることで、多くの成果が刊行に至った。そのなかには、『東洋研究』228号に篠田隆先生、231号に須田敏彦先生の論文が発表された。加えて学外では、鈴木真弥先生の単著『カーストとは何か――インド「不可触民」の実像』(中央公論社、2024年)、さらに英語雑誌の『CASTE / A Global Journal on Social Exclusion』4巻2号に論文が発表された。井上貴子先生の英語論文が『Hugh de Ferranti, Masaya Shishikura, and Michiyo Yoneno-Reyes eds., Unsilent Strangers: Music, Minorities, Coexistence, Japan, Singapore』(NUS Press, 2023)に発表され、『論点・ジェンダー史学』(ミネルヴァ書房、2023年)、『ジェンダー事典』(丸善出版、2024年)ほかにおいても論考が刊行された。ヒンディー語文学を専門とする石田英明先生は、『ヒンディー文学』8号を編集し、翻訳も刊行した。石坂晋哉先生はインドの環境運動史を分析した論文を『歴史学研究』1041号で発表し、長年のフィールドワークの成果をとりまとめている。以上のことから、今年度はこれまでの研究成果を集中的に発表することができた。構成員の専門分野が多様な特徴を生かして、次年度も意欲的に研究に取り組み、研究班のテーマをさらに深化させていきたい
今年度は、オンラインにて4~7月、8~9月、11月、1~2月の8回研究会を開催し(3月も2回開催予定)、各担当者が『虞初新志』巻五~巻六の各作品について訓読・現代日本語訳・注釈等を発表し、研究班のメンバーで検討を加えた。検討した作品は以下の通り。
①李漁「秦淮健兒傳」(巻五)―腕っ節の強い男子の物語
②徐芳「雷州盜記」(巻五)―盗賊が雷州の知事になりすます物語
③林雲銘「林四娘記」(巻五)―父親の面倒を看る四人の娘の物語
④徐芳「乞者王翁傳」(巻五)―正直者の乞食の物語
⑤方苞「孫文正黃石齋兩逸事」(巻六)―明末の文人である孫文正と黄石斎の物語
⑥侯方域「郭老僕墓誌銘」(巻六)―作者侯方域の祖父の代から仕えた郭老僕の物語
⑦吳偉業「張南垣傳」(巻六)―画家で造園家である張南垣の物語
⑧朱一是「花隱道人傳」(巻六)―明末の道人である花隠道人の物語
各話は作者も異なり内容も全く多岐にわたるため、各担当者がそれに合わせて工夫を凝らしながら訓訳を発表している。それに対して専門が異なる参加者たちより自身の見地から様々な意見や情報を寄せられ、それを参考にしながらより良い原稿作りに励んでいる。この成果は次年度に共著として公刊予定である。
第10班 『インド洋が取り結ぶ東西交流の諸相に関する研究』 (主任:栗山保之)
今年度は、5月、8月、12月の3回、オンライン及び対面で研究会を開催した。各回のテーマとその報告概要は、以下の通り。
①
「
アラブの船乗りたちの航海技術
」
(5月):ポルトガル来航前後のインド洋におけるアラブ
の船乗りたちの航海技術について報告した。特に、スライマーン・アルマフリーの航海技術書に記された、航海技術に関わる7要素を紹介し、あわせて陸標としてのウミヘビに関して考察した。
② 「墓地を通して見た世界:ハドラマウト、フライダの墓参とインド洋世界」(8月):南ア
ラビアのハドラマウト地方における墓参の事例として、同地方のフライダの墓地の墓参手順書(写本)『アフマド・ビン・ハサン・アッタースによるフライダの墓参手順』を読解・解析した。本報告について詳しくは、報告者の新井和広氏による論文「家系の広がりと墓参の役割:20世紀初頭の南アラビア・ハドラマウト地方の事例から」(『東洋研究』231号)を参照されたい。
③ 「シャリーフ=カターダと12‐13世紀のメッカ」(12月):イスラームの預言者ムハンマ
ドの生誕地であり、大巡礼の目的地であるメッカを長期にわたって支配したシャリーフ政権について概観し、とくにシャリーフ=カターダによるメッカ支配(1200-1221年)を編年的に詳説した。