周産期心筋症
周産期心筋症とは、産褥(さんじょく)性心筋症とも呼ばれ、心筋症の既往のない女性が妊娠・出産に関連して、心機能が低下し、心不全を発症する病気です。わが国では、毎年50人から70人ほどの妊産婦が、新たに周産期心筋症と診断されています。病気の頻度が低いため、あまり知られていませんが、重症化すれば母体の生命にも関わります。このサイトを通じて正しい情報提供をしていきます。
*周産期とは、妊娠中から産後の母体が非妊娠時の状態に戻るまでの期間のことです。
心不全状態になると現れる代表的な症状を以下に説明します。息切れ、浮腫(むくみ)、倦怠感などの症状は、多くの妊婦さんが経験する症状でもあります。そのため、本人が症状を我慢したり、周囲が心不全を疑わなかったりして、周産期心筋症の診断は遅れがちです。妊娠中から産後の期間に、下記のような症状が強く、どんどん悪くなっているように感じる場合には、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
軽い労働をしただけで息切れがしたり、胸がどきどきしたりします。 また、心不全が進行すると、労働時のみならず、安静時にも息切れが出てきます。
妊娠後期にはおなかが大きくなり、仰向けで寝ることがつらくなります。通常は、片膝を立てて仰向けの姿勢から横向きになるようにすれば、眠ることができます。そのような体勢でも息苦しく、椅子に座ったり、上半身を起こした状態でないと眠ることができない場合には、心不全状態にある可能性があります。
周産期心筋症と診断された方のうち、
約80%
がこの症状により医療機関を受診しています。
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喘息を患ったことがないのに、夜寝ているときに咳が出たり、息を吐くときにゼイゼイという雑音がしたりします。
周産期心筋症と診断された方のうち、
約37%
がこの症状により医療機関を受診しています。
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妊娠中は大きくなった子宮が腹部の静脈を圧迫するため、足の血液が心臓へと戻りにくくなり、足がむくみやすくなります。しかし、足だけでなく、全身のあちこちにむくみを生じる場合は、心不全状態にある可能性があります。心不全状態では腎臓への血流量が減ることにより腎臓の機能が低下し、余分な水の排出ができなくなるためです。このむくみ方の特徴は、立っている場合には足がむくみ、横になっている場合には背中などにむくみが生じるというものです。また、そのむくみは、指で押すとへこみます。
周産期心筋症と診断された方のうち、
約37%
がこの症状により医療機関を受診しています。
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からだがだるくなったり、元気が出なくなったり、疲れやすくなったりします。
周産期心筋症と診断された方のうち、
約24%
がこの症状により医療機関を受診しています。
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妊娠中、胎児の成長とともにお母さんの体重は増えますが、1週間に0.5~1kg以上も体重が増加し、むくみがひどくなることが続く場合には、心不全状態にある可能性があります。心不全状態では腎臓からの水分の排出が落ち、からだの中に水分が溜まって体重が増加するためです。
周産期心筋症と診断された方のうち、
約16%
がこの症状により医療機関を受診しています。
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退院後は、無理をしないことが一番です。乳飲み子を抱えての生活は、心臓に負担になることがたいへん多いため、周りの家族がしっかりサポートをして、負担を軽くすることが大切です。また、飲み薬による治療をしている場合や、心臓の機能の低下が続く場合には、必ず、かかりつけ医を定期的に受診してください。
以下に、日常生活で気をつけるべき点について解説します。
運動や労作について
心臓に負担をかけるような運動や労作を避け、合間に休むなどの工夫をしながら、息切れ等の自覚症状が出ないようにしましょう。
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水分制限について
水分の摂りすぎは心臓の負担になります。医師から水分を制限するよう言われている方は、飲料水量を測定し、制限範囲を守りましょう。
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カロリーについて
体重の増加は心臓の負担となります。かかりつけの医師と相談し、適切なカロリーを摂取するよう気をつけましょう。
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塩分制限について
塩分を摂りすぎるとからだの中に水分が溜まり、心臓の負担となります。医師から指示された塩分量(一般的には6g以下)を守りましょう。
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薬について
かかりつけの医師の指示に従って、飲み忘れたりしないようきちんと飲みましょう。
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体重測定について
心臓に負荷がかかるとむくみが出ることがあり、それに伴って体重も増加します。毎日、同じ条件で体重測定をしましょう。起床時、排尿後が良いでしょう。
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尿量、排尿回数について
心臓が弱ってくるとおしっこが出にくくなります。いつもと同じくらいの量、回数が出ているか、毎日チェックしましょう。
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十分な睡眠と休養について
無理な運動や働きすぎ、睡眠不足、精神的なストレスは、心不全が悪化するきっかけになります。過労を避け、十分な睡眠や休養をとるように心がけましょう。規則正しい生活を送ることが大切です。
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便通について
治療中、水分制限や利尿薬の内服などで便秘ぎみとなることがあります。便秘の際、排便時にいきむと血圧が上昇し、心臓への負担が増加します。いきまなくても排便できるように、食物繊維、果物、牛乳、ヨーグルトなどを摂り、規則正しい排便習慣を身につけましょう。
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入浴について
お風呂に入るときは、急にからだが冷えないように、脱衣所や洗い場を暖かくしてから入浴しましょう(入浴の30分前から浴槽のふたを開けておくと、湯気で風呂全体が暖まります)。また、熱いお湯は心臓に負担がかかり、血圧も上がりますから、40度位のややぬるめのお湯に入り、長湯をしないようにしましょう。
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寒さについて
暖かいところから急に寒いところへ出ると、血管が収縮し、血圧が上がります。とくに冬は室内と外気との温度差が大きいので、なるべく温度差を少なくするようにしましょう。外出時には、マスクやマフラー、手袋などで肌の露出部分を少なくし、室内では居間と浴室、トイレなどの温度差が少なくなるよう暖房器具を有効に活用しましょう。また、夏でも冷房が効きすぎた部屋から出ると血圧が上昇するので、外気との温度差が5度以上にならないように、冷房の設定温度を調整しましょう。
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お酒について
少量のお酒は精神的な緊張を和らげて睡眠をとりやすくし、ストレス解消にも良いとされています。しかし、多量のアルコールは心臓の負担になり、動脈硬化を促進します。かかりつけの医師の指示に従ってください。
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たばこについて
たばこに含まれるニコチンは、血管を収縮させるとともに心臓を必要以上に働かせる作用をします。必ず禁煙しましょう。
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感染予防について
風邪などの呼吸器感染は肺うっ血を起こし、発熱すると全身の代謝が進み、それに伴って心拍出量も増加し、心臓の負担になります。外出後はうがい、手洗いをし、風邪をひかないようこころがけましょう。歯を抜くときは、傷口から感染する可能性があるので、かかりつけの医師に相談してください。
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夫婦生活について
夫婦生活は普通にしてかまいませんが、心臓がドキドキしてしまうと心臓の負担となりますので、無理のないようにしましょう。また、次の項でご説明しますが、周産期心筋症の方の次回妊娠についてはリスクが高いため、かかりつけの医師と相談しながら、必要時には避妊をしっかり心がけてください。
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最終更新日:2023年08月01日